2023/12/30

時価総額は目指すものでなく、結果である。~2023年の締めくくりにかえて~

みなさん、こんにちは

2023年も大晦日で、あと残り数時間というところまで来ましたがいかがお過ごしでしょうか。私は元気です。あ、Starshot Partnersの丸山です。

気づけばこのブログの更新もだいぶ間隔があいてしまっていますが、以前のブログではいつも年末になると締めくくりのエントリを書いていて、ときどきくさして

2021年の最初で最後のブログの更新となりますので、渾身の一撃を書くかどうか悩むところですが、12月30日に更新するとほぼ読まれないので、今年チャレンジしたデカ盛りの話でも書いてもいいのですが、それだと毎年恒例の年末のご挨拶感ないのですね。

なんてことも書いたこともありましたが、そのときは結果として”2020年代をベンチャーキャピタリストとしてどう生きるのか”なんて大それたことを書いてました。


さて、そんなわけで今年は大してブログを書いてなくて、気づけばVC界隈はPodCastが流行ってきてますが、私はテキストが好きなので、よしなしごとをそこはかとなく書きつくっていこうかなと思ってますよ。引き続き

いや、動画も音声も編集がめんどいんですよ。なので個人的にはとって出しのライブじゃないとしんどいなっていうのがあるんですが

あ、話はそれますが来年はとあるPodCastにお呼ばれしたのでPodCastデビューするかもしれません。ラジオは2022年10月に出演させていただきましたが楽しかったので、また出たいところです。


それはさておき、2023年を締めくくるうえで何を書こうかなというところですが、今年の夏に親方のほう

「2027 年までに、上場・非上場含むスタートアップの株式時価総額の合計額を 100 兆円規模とする」

と今年メッセージが出て記事にもなってますし、昨年は政府がスタートアップ育成5か年計画において

将来においては、ユニコーンを 100 社創出し、スタートアップを10 万社創出することにより、我が国がアジア最大のスタートアップハブとして世界有数のスタートアップの集積地になることを目指す。

と謳われておりました。

かたや、今年に入って2023年2月の東洋経済において「大物ユニコーン突如誕生、「時価総額」急騰の死角」という記事のなかで

希薄化率0.5%の新株発行でユニコーンに

「ユニコーンとして時価総額2000億円の評価を得て、資金調達を実施しました」

1月上旬、給与の前払いシステムの開発提供を手がけるADVASA(アドバサ)は、自社の時価総額が2000億円となり、ユニコーンに仲間入りすることを発表した。新株予約権を含めた潜在株ベースでの時価総額は2301億円におよぶ。

 というようなお話が出てきて、2023年3月の「「公表見送り」ベンチャーランキングに起きた異変」というお話が続きました。

そもそも流動性のない未上場企業の株式の価値なんてものは、発行体と小数の投資家との交渉によって決まるもので、多様な投資家の売買によって成立する上場企業の株式の価値とは異なるものであるという大前提があったりするわけです。

もちろん米国のようにストックオプションが未上場でも行使できて、それらを含めた未上場株式の二次流通市場が発達していると、上場が近くなってきたり有名な企業だとちょいちょい取引が起きて、この記事にあるFacebookのように

Facebookも2011年に株主が500人を超える見込みであったため、継続開示を行わざるを得ないことになり、上場準備を進めた、ということになっています

なんてこともあったりしたとかあるわけです。記事中にあるように

(1)証券保有者2000人以上、又は(2)accredited investor(※※)ではない証券保有者が500人以上、

という改正が2012年にあってだいぶハードルはあがったみたいですが。

ちなみに日本でも関東財務局のページにありますが、有価証券報告書の提出義務者として

所有者数が1000人以上の株券(株券を受託有価証券とする有価証券信託受益証券及び株券にかかる権利を表示している預託証券を含む。)または優先出資証券(ただし、資本金5億円未満の会社を除く。)、及び所有者数が500人以上のみなし有価証券(ただし、総出資金額が1億円未満のものを除く。)

 と、話がそれました。

未上場企業では1度でも株価が付いてしまえば、その価格で他に欲しい(買いたい)投資家が存在しなくともそれが時価総額となるという現実を考えると、上記の東洋経済の記事にあるような話は誰でもできてしまうことでもあるのです。

極論すると、会社設立費用が10万円くらいなので、資本金10万円、発行済株式総数1,000万株(0.01円/株)で会社を作り、1万円/株で1株だけ増資をすれば時価総額1,000億円の会社=ユニコーンができてしまうわけです。
※厳密にはユニコーン企業の定義(SMBC日興のサイトにあったので)

評価額が10億ドル以上、設立10年以内の非上場のベンチャー企業

とあるので、いまは1410億円くらいの時価総額が必要なので、1.5万円/株で1株だけ増資すれば理論上はユニコーンが誕生するわけです。

これを応用すれば10億株の発行済株式総数の会社が、10万円/株で1株発行すれば100兆円企業も誕生させることはできるわけです。理論上は。

こんなこと意味がないよって思うじゃないですか。私もそう思います。

でも未上場企業の企業価値がこのように決まるメカニズムにあるというところはしっかりと意識しておく必要があると思うわけです。

そもそも上場企業の株価は多様な考えをもつ多数の投資家たちによって日々売買をされることで形成されていくものであって、そのような多面的な考えが反映され、さらに売りたいときに売れ、買いたいときに買えることでその株価が適正なものとなる価格発見機能が発現していることになるのです。
※なので流動性が低い株は価格発見機能が発現しきれてないという話にもなるのですが

では、その株価の基礎となる考え方とは何か

大原則は

株価=EPS(1株あたり利益)×PER(株価収益率)

という構図になる(BPS×PBRというのもありますが、基本は上の方かなとは思うわけです)

いまの1株あたり利益の何年分の価値があるのか、それが株価となるともいえるわけですが、このPERというものは言い替えるなら、期待値であるといえるわけです。

期待値とは何か、

それは将来においてどのくらい利益成長するのかをいろいろな投資家が考え売買した結果として発現するものである

ということではないかなと。

1株あたり利益が100円/株と同じ会社があったとしても、1社は株価が5,000円/株、もう1社は1,000円/株となるようなことはよくある話ではあります。

このPER50倍とPER10倍との間にあるものが将来の利益成長に対しる投資家の期待値の違いというものであると

PER10倍は将来にわたって利益がほぼ横ばいか微増か微減かというような期待値しかなく、
PER50倍は将来において利益が倍増以上するような期待値がある

ということに他ならないかなと思ってます。

つまり、しっかりと利益を出し、その利益がどう成長するのかの投資家の期待値の結果が時価総額であるともいえるわけです。
PSRもすごく高い売上成長の結果として、将来莫大な利益が生み出されるという期待感があるからこそ、売上高成長を株価の評価としていたりするわけです(毎年倍とかで売上伸びるみたいなことが大前提ではあり、大した売上成長もなくPSRで評価をするのはそもそも間違っていると思いますが)

逆に株価や時価総額を目標に据えると、未上場であれば上述したような話も極論として出てきますし、上場企業であっても利益を生みだし成長させるには時間がかかることから、期待値部分を上げることだけに焦点をあててしまうようなことになるわけです。

でも、そんな張りぼての施策によって一時的な熱狂によって生じた期待値は、四半期毎の実績の開示によって急速にしぼみ失望へと変わりやすいものでもあるのです。

そして失望から改めて信頼を勝ち得るためには、地道な利益成長に向けて努力と実績が必要になり、結果として余計な回り道をすることになる本末転倒なことになると。

短期の投資家であれば熱狂の最中に売り抜ければそれで終わりかもしれませんが、発行会社の経営や投資家とのコミュニケーションは継続していくことになることは十分に意識しなくてはなりません。

こうしたことからも熱狂的なムードを作りIPOさせ、未上場投資家だけが利益を得るようなことはあってはならないことでもあります。

また、最近では、未上場時の株価よりも低い株価でのIPOも散見されるようになってきましたが、未上場投資家は雰囲気で株をやらず(byインベスターZ)、スタートアップするとはどういうことかを改めて考え、より速くより大きく成長するために起業家やチームとともに何ができるのか自問自答し、実践し続ける不断の努力が欠かせないのではないでしょうか。

より速く、より大きく利益が成長することが期待値の上昇に繋がるわけで、それをより多くの人に理解してもらうことこそが期待値上昇には欠かせず、いいエクイティストーリーにもなるという話であると。

こうしたことの積み重ねの結果として、時価総額100兆円やユニコーン100社に到達することには何も問題はないですが、目標としてそれらを掲げることは道を誤ることにも繋がりかねない危うさを秘めているのではないかと感じるわけです。

もちろんわかりやすい目標を掲げてそこに向けてがんばるというのは大事なことだとは思いますし、それはそれでそれを掲げざるをえない部分もあるとは思いますが。

ネットバブルの熱狂の残り香を嗅ぎながら社会人をスタートし、その後いくつかの波を乗りこなしてきたなかで感じることは、これまで時価総額が目標となったときに危うい場面を迎えてきたなという気がしているわけです。

時価総額を追うのではなく、生み出す付加価値=利益をどれだけ速く大きくできるかが大事であることを改めて考えていく2024年になるんじゃないかなと思います。

もちろん速く大きい利益成長を実現するために、大きな投資を行って一時的な赤字になることもあるとは思います。Amazonだって上場してずっと赤字続きだったけど、ジェフ・ベゾス氏のエクイティーストーリーに関する説明力と高い売上成長の実績が将来の莫大な利益を期待できるからこその株価であったともいえるわけです。

翻って私も含め未上場投資家は、将来の高い利益成長のために、未上場時にいかに高い売上成長を実現を後押しし、その売上成長率がより高くなるためにはどうしたらいいか、将来の利益率がより向上するためには何が必要かを起業家やチームとともに考えぬいていくことこそが最大の付加価値であることを意識して日々精進することが大事なんじゃないかと思う大晦日でございました。

今年も、過去の記事が参考になりましたと言われることがありましたが、ときどきでも読んでいただけて大変ありがたいです。

ということで、ユニコーンでは、大迷惑も好きな曲ではありますが、その選曲だとなんかいろいろありそうなので「すばらしい日々」を聴きながら終わりにしたいと思います。

読者のみなさまにとって2024年が素晴らしい1年となりますよう祈念しております。

よいお年をお迎えください。

それでは。また来年